「羊のいる風景」にみられるチムリアンのエピソード。 * * * * * * * * * * * Nr. 102『ブルーベリーとクリームチーズ』 当のチムリアンはというと、退屈してとっくに眠り込んでいた。体を巻き込んでしっぽ(本人が思っているほどに立派ではない)の内側にうずめた、おなじみのベーグルパンスタイルである。 Νr.112『聖なるかな』 耳をすますと、チムリアンが高い声で歌っているのがわかった。淡く清らかな旋律が、きらめきながら光の帯をゆっくりとなぞっていく‥‥‥ しかし、それもすぐに断ち切られた。私がこっそり聴いているのに気づいた途端、彼女はぴたりと口を閉じてしまった。深い怒りをたたえたチムリアンの眼の中で、どす黒い炎が渦を巻いている。 Νr.127『羽毛の詰め合わせ』 日没までにはなんとか店に辿り着いた。しかし、肝心の林檎のムースは売り切れていた‥‥やむをえず木苺のババロアで間に合わせることにしたのだったが、やはり気に入らないようだ。チムリアンはババロアにちらりと目を向けると、首をわずかに傾け不思議そうにこちらを見た。 Nr.180『同心円の予感』 ふいに視線を感じて振り向くと、書架の棚の一角にチムリアンの眼が見えた。身をかわすまもなく、チムリアンが眼から発した光線が私の肩を射抜く。肩越しに壁を見やると、光線がそこに描いた2つの黄色い円の中には、羊歯の葉のような文様がくっきりと浮かんでいた。 Nr.193『麗しのお嬢さん』 あわてて「チムリアン!」と呼びかけると、間髪を入れずに鋭い平手打ちが飛んできた。またへまをやってしまった。とっさのことだったので、敬称をつけるのをつい忘れてしまったのだった。その敬称ときたら38文字もあって、私はいまだに暗記できないでいるが──もちろん、チムリアンに言い訳など通用しないのである。 Nr.247『スポンジ主義』 シナモンの壜は空っぽだった。蓋が脇に放置されているところをみると、またチムリアンが食べてしまったのにちがいない。私はためいきをついた。地下室にまだストックがあったはずだ。 シナモンの壜を手に戻ると、ドーナツが消えていた。──裏庭へ出る扉が少し開いている。 そっとのぞくと、柳の木の下で、ドーナツたちが輪になって跳躍していた。輪の真ん中あたりから、くるくると風向きを変えるような独特の旋律が流れ出る。それは次第に濃くなって…… #
by YuyusInstitut
| 2019-06-11 19:28
| 羊のいる風景
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by YuyusInstitut
| 2019-05-10 21:01
| 羊のいる風景
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