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丑のうし

Steiff Tierkreiszeichen Ochse:
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 2009年に、干支にちなみ作られたシュタイフの牛さん。2009体の限定品で、私が持っている唯一の“白タグ”シュタイフです。当初は干支のシリーズ化を検討していたそうですが、以降は続いていない様子。
 体長16cm(しっぽを含めず)。元々ははだかんぼうで、木製の台座に足が縫い留められていました。
 のびのびさせてあげたくて、台座から外しました。首のリボンは紅茶店マリアージュ・フレールのスコーンについていたもの。よく似合いそうだったので、着せてみました。
# by YuyusInstitut | 2011-10-08 15:21 | ぬいぐるみ

羊のいる風景 Nr.301-311

 Nr.301『黄色、それは太陽の色』
 真新しい靴下は白い靴と明るいブルーのセーラーカラーシャツによく映えた。海に心寄せる装いは、ささやかな夏の楽しみでもある。
 通りでふと足下に視線を感じた。気のせい?——いやそうではない。そして、確実に増殖してくるそれらが好意的なものではないこともすぐに知れる。侮蔑にみちた忍び笑いがひたひたと押し寄せ、まとわりつく。
 とうとう一人が笑顔を全面に広げて掲げ、向かってくる。
「素敵な色の靴下ですね…!」
 その瞳は深く艶のない闇をいっぱいにたたえていた。


 Nr.302『特製最高級クリーム』
 あそこだ。同じ白い服を着、左手には桃を一つ。みな急ぐともなくゆるやかに集まっていく。階段を上がり窓口で一人ずつ自分の桃を提出し、代わりに銀のプレートを受け取る。反対側の階段を降りてまたそれぞれ散っていくのだった。すべては整然、果実の芳香さえもただそっと辺りを包んでいるのみ。
 私も、自分の桃にもう一度目をやると歩きはじめた。


 Nr.303『縁取りコレクション』
「本日の入場条件:ピーナッツバターが好きな方」
 おおそれはまさに私のことではないか。思わず小躍りしたいような衝動を抑制しつつ、列についた。
 しかし、確固たるものと思われた私の入場権は、コーヒーに投入した綿菓子のごとくたちまちのうちに消失することになる。受付の男はなめらかに言った。「誠に失礼ながら、ピーナッツバターはあなたを好きではないようなのです」


 Nr.304『焼き栗ロックンロール』
 背後の気配に気づいたのは、坂に入ったときだ。一見ごくふつうの通行人を装い、何気ないふりをしつつ、がしかしひたひたと確実に——などということはなく、あからさまにはりついている。
 私が立ち止まれば、追跡者も立ち止まる。ついにたまりかねてきっぱりと振り向けば、直線的な視線が一斉に降り注いだ。私の背後の列は、蛇行を繰り返しながら今や丘の下にまで達しており、さらにまだ伸びていく様子だった。


 Nr.305『季節の楽しみ』
 新しい厚地のコートに私の体はぴたりと——まるでこのコートのために誂えたかのごとくきれいに吸いついた。
 ボタンをすべてはめ肩の力をぬくと、私の姿はほぼ球になる。‥‥素晴らしい!
 雪がさらに厚みを増し上質なフェルトのようになったとき、私は扉を開け外へ出よう。そしてコートの丸みを利用し、まだ誰もふれていないまっさらな雪の表面に、半球の凹みをいくつも作るのだ。


 Nr.306『艶消しの頃』
 匂いについてはこの際もう問うまい。模様もまあ受け入れ不可能ともいえなくはない。けれど——問題は色だ。いくらなんでもこれはないだろう。ほら、通りすがりに目にする人がくしゃみを繰り返しているではないか?


 Nr.307『光のテーブル』
 彼が揚げるドーナツは妙に穴が大きい(ドーナツというよりはむしろドーナツの穴を揚げているともいえる)。
 彼はひたすら集中し作業を続けており、ドーナツの穴につめるために彼があらかじめ作っておいたパパイヤクリームに小さなつきのわぐまがもぐりこんでいることにも、まったく気づいていないようなのだった。


 Nr.308『探偵ルルミールの冒険』
 一見して仕立ての良さそうなツイードのジャケットを着込み堂々と直立しているのは、先月の末に私の家のオーブンから逃げ出したハムであると私は確信する。
 あの特徴的な焼き目、そして印象的な照り。むろんすっかり冷めているが、まちがいない。けれど、今の私にはどうすることもできないのだ。
 諦めきれずその場に立ち尽くす私に、ハムは壇上からまっすぐに視線を向けた。——完全に私の負けだった。


 Nr.309『紅茶の町』
 最後にただ一つ残っていたのは、用途の知れない小さな玉だった。材質は不明であったが——革か木のようでもあり、また鉱物とも見える——やけにしっかりとした重さを備えている。
 艶を増しながら日ごとに大きくなっていくそれに、私はまだ名前をつけられないままだ。


 Nr.310『クリームになる』
 こうして潜りこんでしまえば、嫌な色の音もざらついたつむじ風も、追いかけてはこない。
 私はパンの皮に手をかけて生地を浮かせ、奥へ進む。いまだほのかに余熱をたたえるやわらかな深部へと。


 Nr.311『きのこ風味に憧れて』
 道はせわしなく蛇行しながら斜面を這い、森の濃い部分へと潜り込んでいる。その先は、おそらくあの古い回転木馬へとつながるのだ。馬たちは今日も全力疾走しているにちがいない。朝もやの中でたてがみをなびかせ、蔓草を振り払おうと懸命に。(1頭だけ混じっている白いキリンは、先頭なのか、それとも最後尾なのか?)
# by YuyusInstitut | 2011-10-08 09:04 | 羊のいる風景